【短編】ノスタルジア
私とトオルが過ごした田舎町には、そんなに自動ドアなんて無かったから気づかなかったのだ。
少なくとも、大学入学と同時に上京するまで、自分がそんな特異体質だとは知らなかった。いや、深く考えていなかっただけで、後で思い直してみたら確かに、自動ドアが一度で開いた記憶なんてないんだけれど。

「でも、二度目で必ず開くなんてそれはそれですげぇんじゃないの?」

う。
私は言葉を詰まらせる。

昔っからそうだ。
人がどうってことないと思っているところを拾い上げて、さらりと褒めるのが得意なのだ。しかも、唐突に。
懐かしさに誘われて思わず口が滑る。

「トオルってば変わらないねー。
褒め上手なところと、私が失恋したら即座に現れるところが」

「は?何、それ」

トオルがきょとんとする。
そりゃそうだ。
私とトオルが再会したのは10年ぶり。
私の元彼に実は奥さんが居ると分かったのは、つい昨日のことなんだから。

分からなくて当然よね。

「さっきは叩いて悪かったわね。タイミングが悪すぎんのよ。
昨日、彼氏っていうか既に元彼? に奥さんが居たっていう衝撃的事件が発覚したばっかりでさ。
ジョンの足、止めちゃって悪かったわね」

ジョンは私が犬嫌いであるということが分かっているのか。
必要最小限の距離に、接近を留めてくれていた。

そうしたら、ふわりと。
また、トオルが私の髪を撫でたのだ。

「そうか?
だったら俺はお前を嫌っているそのセンサーと、元彼の奥さんとやらに感謝しとくわ。」

「な、んで?」

「お前と再会させてくれたから」

あまりにもさらりと照れるようなことを口にするので、目が点になる。

「アンタ、こんなヤツだったっけ?」

考える前に失礼なことを呟いたのも、許して頂きたい。
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