砂漠の王と拾われ花嫁
息子のタージルは父親を黙ってみているだけだ。


そもそもこの国では子が親に逆らえる立場はなかった。


ぎりぎりと腕が痛み、莉世はとうとう口を開いた。


「離しなさい!」


とても大臣にかける口調ではなかった。


「この小娘!お前など殿下が捨てれば奴隷市場に売られるのだぞ?」


お兄様がわたしを捨てる!?


サーッと血が足に落ちる感覚で、莉世の顔は一気に青ざめた。


「どうだ?わしが身請けをしてやろう」


耳元に分厚い唇を寄せられて全身に鳥肌がたつ。


「嫌っ!放しなさい!」


莉世がもう一度叫んだ時、石塀の向こうに人と馬の気配がした。



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