忍抄(しのぶ・しょう)
 レストランを出て銀座駅に向かう途中で、忍の様子が変なことに気づいた。

「・・・し、忍君!大丈夫か?」
「・・・ご免、気持ち悪くなっちゃった」
「はじめてなのにワインをあんなに飲むからだよ!」

 背中をさすると大丈夫と言うので、俺たちは地下鉄で新宿へ向かった。

 鳥居家は新宿と新大久保の中間ぐらいにある。東京としてはちょっと寂れた区画にあった。
 新宿駅から歌舞伎町の喧噪を避け、その脇を通って住宅地に入って行く。住宅地と雖も、ここは新宿。あちこちに料亭やラブ・ホテルがある。

 忍の肩を抱いてよろよろと歩く俺たちを、ラブ・ホテルを出入りするカップル達が興味深そうに見る。

「ちょっと・・・やばい」

 俺は口を押さえた忍を小さな公園に連れて行った。ブランコが二つぶら下がっている脇の水飲み場に直行した。

 忍に水を少し飲ませると、俺はベンチに一緒に座った。忍の肩に手を回し背中をさすった。忍はぐったりと体を俺に預け、頭を俺の頬に付けた。
< 13 / 20 >

この作品をシェア

pagetop