忍抄(しのぶ・しょう)
 俺は二時間も前から、マリオンの前の石のベンチに腰を下ろしていた。

 忍は来やしない!だがこれで良いんだ。今日で終わる。失恋ということで。
 今まで幾人かの女の子に恋をしたと思っていた。
 しかし経験したことのないこの心の痛みは何なんだ?

 本当の初恋?

 早く来た時間と同じ時間が、五時を回って過ぎていた。
 俺には時間などどうでもいい概念だった。苦しい息を吸うのに何時間もかかる様な気がした。

 俺は深夜まで、ここに身じろぎもせず頭を抱えて座っているだろう。それで胸の痛みを少しはやり過ごすことが出来れば良い・・・

 俺の前に誰かが立った。
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