悪逆の檻
そのまま、どれくらい経っただろうか。
数分か、数十分。
もしかしたら、数秒だったのかもしれない。
ガシャン
と金属の動く音がして、扉が開く気配がした。
恐怖はあるが、ずしりとして体は動かない。
どうにか、扉の方に視線だけ送った。
若い男だ。
鬱陶しそうにハンカチで、服についた血を拭いている。
男は、こちらの視線に気付き、ほとほと嫌そうに口を開いた。
「血ってベタつくから、嫌だね。 早く洗濯しないとシミになるよな・・・せっかくの一帳羅なのに」
言いながら、部屋の中央にある、テーブルについた。
「お互い、よく分からないことに、巻き込まれてしまったね」
ひょうひょうと、話しかけてくる。
こいつ、人死が平気なのか?
「僕は・・・いや、名乗らない方がいいか。手品師だから、マジシャンさん。長いな。うん、マジさん。にしようか、マジさんって呼んでね」
ふざけている。
が、その平常さが、ありがたかった。
思考が、先程の出来事から離れ始める。
床から、上半身を持ち上げる。
「恋です。よろしく」
「よろしくはやめとこうよ。たぶん、殺し合うんだろうから」
身も蓋もない人だ。
「そう、ですね」
不謹慎だが、少し笑ってしまった。