悪逆の檻
へらへらとした笑みを顔に貼り付けたまま、手品師が、机に配られたままの自分の手札を端から2つ返す。
♠️と🖤。
どちらも、K。
ペアだ。
配られた最後の2枚がペアになっていて、
それが、見ずに分かる。
こんなこと、偶然に起こるわけがない。
2つのキングは、そのままテーブル中央に捨てられる。
「君の敗因は、人を信用し過ぎたことだよ。 命を賭けるってのに、シャッフルもディールも相手任せ。甘ちゃんにもほどがある」
悪意のある笑みで、次の2枚を返す。
♠️と🖤。
どちらも、Q。
「相手にイカサマしてくださいって、言ってるようなもんだよ」
また2枚。
「手品師が、トランプの順番をいじるのなんて、基本中の基本だからね」
また2枚。
「まぁ、前のババ抜きで、イカサマしても勝ち残れたってのが大きいよね。 さすがに、最初から命賭けてると分かってたら、怖くて試せないからね」
また2枚。
「そーゆーのも含めて、時の運だからね」
2枚。
「いいかい? 名前も知らない相手を信じちゃ、ダメだよ。 長生きの秘訣は警戒心」
2枚。
数字のペアは7まで到達した。
後、6ペアで終わり。
「いやいや。 もう、死ぬ人に説教は良くないね。 ごめんごめん」
2枚。
残り5ペア。
「あのね、悪いことをしたとは思ってるんだよ?」
言葉の割に、手品師に悪びれる様子は、まったくない。
2枚。
残り4ペア。
「やっぱり、お金も命もかかってるから、こっちも必死なんだよ」
2枚。
残り3ペア。
「とりあえず、死ぬ前に言っておきたいことは、あるかな。 家族でも恋人にでも、伝えるよう努力するよ」
2枚。
残り2ペア。
「俺が言いたいことは、1つだ」
「うんうん、なにかな?」
頷きながらも、手品師はカードを2枚捨てる。
残り1ペア。
深く息を吸い込んだ。
そしてーーーーー。