悪逆の檻
「5枚では、どうだ?」
私は、提案していた。
これほどの勇を見せられて、破棄するなんて粋でない。
ポケットから1枚抜き出す。
「ここに前の部屋から持ってきたジョーカーがある」
机の上のカードを、無作為に4枚ずつ配る。
そして、互いにジョーカーを1枚ずつ配置する。
「お互いに、相手の5枚から選び合い、先にジョーカーを引いた方が敗け「やりましょう」」
間髪入れずの返答に、私は自然と口角が上がるのを感じた。
愉悦至極。
いったい、この少女は、その裡にどれ程の化け物を棲まわせているのか。
体が震えている。
これが、武者震いというものか。
恐怖を享楽が塗り潰している。
いや、1つまみの香辛料のように、
眼前の死が、生の実感を色濃く映し出している。
「さぁ、はやく始めましょう」
決着を急く、娘の声も最早、快さすら感じる。
「あぁ」
私は、軽快に返答した。
「いや、その前にひとつだけ」
先に聞いておきたかったことがある。
「どうして、そんなに急いでいるんだ?」
質問に少女は、初めて年相応の反応を見せた。
指先で前髪をくるくると弄びながら、僅かに羞恥の相を浮かべた。
「……会いたい人が、いるので」
一途か。