音楽バカ
「さっそく、今日の放課後、音楽室に…」
「き、今日ですか?!」
「そうよ。
コンクールの予選は1週間後。
今日からやって間に合うかどうか…」
山羽は複雑な面もちだ。確かに間に合わないのはわかるが、今日は…
「今日は遙さんが…」
「遙?」
山羽が露骨に驚いた表情をした。
「…誰なの、それ。」
山羽は努めて冷静を装っていたが、動揺しているのはバレバレである。
「河井 遙さんって言って…
うちの吹奏楽部のコーチです。」
「あぁ…そう…。」
美音と希良は顔を見合わせた。
「知ってるんですか?」
「いいえ。」
手短に返事をして山羽は後ろを向いた。
「今日から1週間はこっちを優先して。」
「…はい。」
逆らえる気配はなかった。
そして気のせいかもしれないが、山羽の背中は少し寂しげに見えた。