音楽バカ

「さっそく、今日の放課後、音楽室に…」

「き、今日ですか?!」

「そうよ。
 コンクールの予選は1週間後。
 今日からやって間に合うかどうか…」

山羽は複雑な面もちだ。確かに間に合わないのはわかるが、今日は…

「今日は遙さんが…」

「遙?」

山羽が露骨に驚いた表情をした。

「…誰なの、それ。」

山羽は努めて冷静を装っていたが、動揺しているのはバレバレである。

「河井 遙さんって言って…
 うちの吹奏楽部のコーチです。」

「あぁ…そう…。」

美音と希良は顔を見合わせた。

「知ってるんですか?」

「いいえ。」

手短に返事をして山羽は後ろを向いた。

「今日から1週間はこっちを優先して。」

「…はい。」

逆らえる気配はなかった。

そして気のせいかもしれないが、山羽の背中は少し寂しげに見えた。
< 26 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop