音楽バカ
―「ねぇ、希良、」
練習を受けて3日が経ち、今日で4日目。
今は5限目と6限目の間の休み時間である。
「希良、きいてる?」
希良は魂が抜けた表情で美音の顔を見た。
「そういえば吹部の方は大丈夫なの?」
「なにが…」
「もう3日も休んでるから。
あんたのとこの部長、黙ってないかと思って。」
「なら、何であたしのこと合唱部に強制送還したの!」
希良は美音を睨みつけた。
もっとも、美音は全く動じないのだが。
美音はにっこりと微笑んだ。
「ま、がんばって。」
「軽っ」
「あたしだもん。」
「じゃあ何でそんな質問したのッ!」
「あたしだもん。」
「またそれかよッ!!」
希良は大きくはああ……とため息をついた。
美音はそれを見てさらに微笑んだ。
「今日の練習もがんばって。」
「うぅっ……」
希良は机に伏せた。
思い出すだけで恐ろしい。
「音が違う!」
「姿勢悪い!」
「発声が成ってない!」
「横隔膜!使ってない!」
「もう一回やりなおし!」
「は、はい!」
地獄の練習はまだまだ続く。仕方ないことだ。合唱には全くのド素人をあと数日でしごき、暗譜までさせなくてはならないのだから。
仕方ないことくらい、わかってる。
でも……
「きついなぁ、本当に。」
美音はため息をついた。
「それはあんただけじゃないでしょ。」
あたしも、とは言わなかったが。
美音も辛いのは明確だ。