音楽バカ
「あんた、ガッチガチねぇ。」
まだややかすれた声で美音は笑った。
「だだだだって……」
控え室の空気は緊張感と和やかさが混ざった中間だが、希良の周りだけやたらと空気が荒れている。
吹奏楽同様、合唱でコンクールに出た経験はない。
というか、これでも結構緊張はする方だから希良はガチガチだ。
「大丈夫ですよ。」
愛美が希良の背中をさすった。
「希良さん、落ち着いて。
あとは希良さんが持ってる音楽を楽しむ気持ちが出せればうまくいきますよ。」
「音楽を…楽しむ…。」
「そうだよ。」
さっきまで係員と打ち合わせをしていた沙穂子もやってきた。
「みんなそうなの。
音楽が大好きでだから舞台に立ってるのは1人じゃないよ。
みんながいるよ。」
「ん…。」
希良は小さく頷いた。
「笑原中学校合唱部の方、スタンバイお願いしまーす。」
「じゃあ行こうか。」
沙穂子が歩き出したので希良も立ち上がると、その背中を美音が思い切り押した。
「希良なら大丈夫よ。」
「…ありがと。」
後ろを振り返らずに、歩き出した。
そのときの美音の手は小刻みに震えていた。