音楽バカ
その時、山羽は舞台袖でその歌を聴いていた。
そして驚いた。
この一週間聴いた中で一番うまい。
もはや今までの歌は論外だ。
「信じられない…。」
腕組みをしながら、呟いた。
信じられないが、紛れもない事実だ。
山羽はその心動かす歌声に目を閉じて耳を傾けた。
控え室ではステージで行われている発表が画面に映し出されている。
最初は数人見ていただけだったのだが、いつの間にか控え室にいたほぼすべてのエントリー者が集まっていた。
「君と同じ制服ってことは同じ学校ってことか?」
隣で見ていた高校生が美音に話しかけた。
「はい、そうです。」
美音が答えると、その高校生は苦笑気味に言った。
「すげーな、この子たち…。」
「そうですね。」
美音は画面を見ながら微笑んだ。
やっぱ思ったとおりだった、と。
元々の潜在能力が高い希良に歌えないわけがない。
わかっていた。
わかっていながらも不安で仕方がなかった。
出なくなった声を何度恨んだかわからない。
だから一番信頼している希良に賭けた。
ありがとう、希良。
…なんて、口に出して絶対に言ってやんないけどね。