。☆゜星空゜☆。
ピッチの電源を入れると、夜中の12時を過ぎていた。
翼のお通夜が6時半。
あれから6時間しか経っていなかった。
ひとりでいると、すごく時間が経つのが遅いのに、翼といるときはあっという間に過ぎていく時間が、懐かしく思えた。
目の前に人影を感じたので、顔を上げると、お兄ちゃんが寂しそうに立っていた。
あたしはなにも言わず下を向いた。
長い沈黙のあと、先に話しはじめたのはお兄ちゃんだった。
「なんで?」
そのひと言で、お兄ちゃんがあのときの状況を知らないことを悟った。
あたしは黙っていた。
「なんで?流奈ちゃんは来てくれると思ってたよ……」
お兄ちゃんは涙を流していた。あたしは目を反らした。
「翼は一番、流奈ちゃんを待ってたと思う……。ショックだったよ」
お兄ちゃんはあたしに聞こえないくらいの声で言った。
あたしもつられて泣きそうになったけど、堪えた。
一生懸命、唇を噛みしめて堪えた。
「なんも言ってくれないんだね」
お兄ちゃんの小さな声が、こもって聞こえづらかった。
「時間……、忘れてた」
とっさに嘘が出た。強がりの嘘……。
翼を死なせたあたしを、お兄ちゃんが嫌ってくれれば、と思った。
「そう……、忘れてたんだ」
「………」
お兄ちゃんの視線があたしに向けられているのを感じて、顔を上げられなかった。
「流奈ちゃんは、また幸せ探さなきゃだもんな。ごめんね……、忘れてくれる?」
いまにも消え入りそうな声で言ったあと、あたしから少し離れた。
「明日、翼の骨を海にまくんだ。それだけは……。それだけは、もうほかに無理言わないから……。だから流奈ちゃんに来てほしい。信じてる」
それだけ言い残して去っていった。