*あたしの好きな人*


「‥‥‥雄太、違うの。あたし、このまま、こんな気持ちのまま雄太と付き合うことできない。」


「だから、だからいいって言っただろ?俺のこと、今は好きじゃなくてもいい。今すぐ好きになれとも言わない。少しずつでいいんだ。どれだけ時間がかかってもいいから‥‥」

「ううん。きっとどれだけ時間かけてもあたしは‥‥」

「何が足りない?桜井龍と俺の違いは?」


龍と雄太の違い?

そんなのわからないよ。

比べられない。

比べることじゃない。



「雄太は雄太。龍は龍だよ。あたしは雄太と龍を比べてたわけじゃない。ただ、龍という一人の人が好きなの。どんなことがあっても、やっぱり龍が忘れられなかった‥‥ごめん、雄太。」


「‥‥‥‥もういっさい気持ちは変わらない?」


あたしは、
静かに頷いた。


「柚が別の人を好きでも、俺は柚が好きだよ。」


「ごめん。雄太、ありがとう。いっぱい優しくしてくれてありがと。でもこれからはあたしみたいなやつじゃなくて、雄太にはあたしなんかよりもっといい子が絶対いるから、その子にその優しさをあげて?あたしにはもったいないよ。」


雄太は下を向いてしまった。


微かに、雄太の肩が震えているように見えた。



雄太、泣かないで。





「柚?ちょっとは俺のこと好きだった?」


この質問に、
あたしは自信をもって
大きく頷いた。


「好きだったよ。」







雄太はもう一度、
あたしを抱き締めた。


「これで最後だから。」





そう言って、
少し体を震わせながら
雄太はあたしをぎゅっとした。




今度は雄太の気が済むまで
あたしは雄太から離れないでいた。




< 105 / 146 >

この作品をシェア

pagetop