*あたしの好きな人*

どれくらいの時間がたっただろう。


ようやく気持ちが落ち着いたのか
雄太はそっと静かにあたしから
離れた。


「柚、ごめんな。」


「なんで謝るの?謝るのはあたしのほうだよ。」


「いや、柚はなんにも悪くねーよ。柚は、正直に自分の好きなやつのほうに行っただけ。俺は柚のこと好きで、だから好きなやつのことは応援してやりてーのに‥‥まだそれができないから‥‥‥‥俺当分柚のこと諦めきれねーわ。勝手に好きでいることくらい許してくれよ。はは‥‥」


雄太は淋しさの混じった表情で
下を向いて悲しげに笑った。

あたしの目からは、
溢れるようにして涙が流れてきた。



あたしは雄太を傷つけた。


雄太がこんなにもあたしのことを
想ってくれているのに、
あたしは雄太に答えることが
できなかった。


もしかしたら、
雄太と付き合えば
幸せで楽しい毎日が待っている
かもしれない。

でも、それでも、
うまくいくかわからず、
幸せな毎日なんて保証されない
龍を選んだ。



たとえ、あたしの想いが
龍に伝わらなくても、
途中で諦めずに後悔しないように
最後まで頑張らなきゃ、
雄太に悪い。



あたしは流れ出る涙をこらえて、
雄太に最後の言葉を告げた。








「‥‥ゆ、雄太‥‥ありがとう。本当にありがとう。」


あえて謝りの言葉は口にせず、
感謝の気持ちを精一杯伝えたかった。




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