*あたしの好きな人*

それからあたしは雄太の部屋を出た。

玄関で雄太はあたしの手を掴んだ。


「もう遅いから、送るよ。」


「え?いいよ。大丈夫!」

「でも‥‥危ないから。」


雄太はそう言ってあたしの手を
離さなかった。


「これで柚に付きまとうのは最後にするから‥‥」

「ちょっと‥‥付きまとうって‥‥雄太、あたし雄太のことうっとうしいとか思ったことないよ?雄太のことは好きだったから‥‥だからそんなふうに思わないで?自分のこと責めたりしないで。ね?」



雄太はまた下をむいて悲しげに笑った。


「雄太、ありがとう。バイバイ。」

あたしは雄太に手を振った。


雄太は何も言わず、
あたしを見つめるだけだった。



あたしは玄関を出て
駅に向かって歩き始めた。








「柚!!」

突然後ろから呼ばれ振り返った。


「柚!ありがとな!せめてこれからは友達として仲良くしよーぜ?」


そう言った雄太の顔は
とても優しい笑顔だった。

雄太はあたしのところまで走ってきた。


「嫌か?」

あたしは思いっきり首を横に振った。


「全然!むしろあたしなんかと友達でいてくれるの?」

「あったりまえだろ!‥‥‥柚、がんばれよ?うまくいくように‥‥ってまだ思えねぇけどさ、いつかそう思えるように俺も頑張るから。」



あたしの目から、また涙が流れた。

「うぅ‥‥ゆ、う、た〜‥‥ありがとう。」


「泣くなよ。じゃーな!また新学期な!」


雄太はあたしの頭に手を置き、
ポンポンとしてから帰っていった。



< 107 / 146 >

この作品をシェア

pagetop