*短編* それを「罪」と囁くならば
第1章:孤独な蝶と
―――《彼》が、怯えている。
それに気づいた由奈は必死に《彼》を抱き締めた。
華奢な体ながらに力強く。
《彼》を落ち着かせようと優しく背中をさする。
無言のまま、大丈夫だとその手で伝えるのだ。
震えている手で由奈の服を弱々しく掴む《彼》。
その何気ない仕草が、由奈は嬉しかった。
今必要とされてるのは自分だと――感じたから。
「……由奈」
呟くように名前を呼ばれ、由奈は背中をさするのをやめた。
そして「なに?」と小さく返事をする。
ゆっくりと体を離され二人の目と目は合う。
どこか寂しそうな目が愛おしく、穏やかな笑みがこぼれる。
そっと《彼》の頬に手を添える。
《彼》は由奈の手に自分の手を重ね、静かに目を閉じた。
「由奈、由奈」
繰り返し名前を呼ばれるだけ。
《彼》の口から幾度も自分の名前を呼ばれることに、幸せを感じていた。
すると重ねてた手を引っ張られ、由奈と《彼》の唇が重なった。
とてもとても……優しい口づけ。