*短編* それを「罪」と囁くならば
第2章:眠り姫には口づけを
小学生の頃、由奈の両親は離婚した。
離婚の理由は父親が不倫をして子どもができたらしいから。
父親は母親と毎晩口論をして、最終的には父親は家を出て行った。
正直そのあたりの由奈の記憶は曖昧だ。
だが、夜に二人の口論で目を覚ましてあまり寝れなかったことを覚えている。
父親が出て行ってから母親は激変した。
穏やかな性格の面影はなくなり、夜な夜な遊ぶ。
派手な生活ばかりだった。
由奈の存在などほとんど忘れていた。
名前も呼んでくれない。
ときどき由奈から話しかけると、返ってくるのは由奈が求める返事ではなくいつも同じものだった。
『お母さん、今日何の日かわかる?』
『今日……、ああ、あの人が出て行った日ね』
『………違うよ』
何の日か訪ねれば父親が出て行った日だといつも答えていた。
違う、そう由奈が呟くように言えばパシンと乾いた音が辺りに響く。
『あの人は私を裏切ったのよ!? あの人が出て行った日は鮮明に覚えてるの!! 絶対に私はあの人を許さないっ』
由奈はじんわりと痛みが広がる左頬を押さえる。
ゆっくりと母親を見上げるとその瞳には娘の由奈は映っていなく、父親への怒りと憎しみが映っていた。
もう完全に……母親の中には由奈の存在はなかった。
“………違うよ”
―――今日は私の誕生日だよ―――