*短編* それを「罪」と囁くならば
……もしや、彼の愛する人の名なのか。
そういう確率は高い。
なぜなら由奈が《彼》の顔を覗いた時、とても穏やかな表情をしていたからだ。
初めて見る表情。
由奈は動揺を隠せなかった。
そのことを一晩中考えて結局寝れなかった。
まるで昔、両親が激しい口論をしてたあの夜たちのように。
『ナツミ……』
それは父親が自分の名前を笑顔で呼んでくれたことも思い出された。
『由奈』
もう戻ることのできない、三人の家族姿。
高校卒業以来、母親とは連絡も取ってないし会ってもいない。
由奈が一人暮らしを始めたからだ。
母親を避けるように。
きっと母親にとっては自分がいてもいなくても変わらない。
「おい、由奈?」
「あ、ごめん」
またもやボーっとしていた。
そんな由奈にヒカルは呆れていた。