*短編* それを「罪」と囁くならば
 




愛しい人の温もりはとても心地良い。
優しい口づけと共に、《彼》に愛されてるという錯覚になりそうだった。
……そう、《彼》は由奈を愛してる訳ではない。
まるで恋人同士のように見えるのに二人は恋人ではない。
かといって、関係性は何とも曖昧なものだったが、それでも由奈は良かった。
全部わかってて、この幸せな、夢の時間が好きだった。

例え、《彼》が自分を愛してないとしても。


《彼》に―――最愛の人がいたとしても。



――――――――
――――――


―もう帰るの?


そう聞きたかった。
それは口には出さずに胸の内で問う。
《彼》は由奈に背中を向けたまま何も話さず、シャツを羽織る。
幸せな夢から覚めたこの瞬間、由奈にはこれ以上ないくらいの寂しさが襲う。
だが、《彼》が自分に背中を向けているからといって、寂しい顔をしてはいけない。
もう、夢が見えなくなるから。
《彼》との関係は本当に曖昧なもの。
自分達を知らない誰かに関係性を聞かれたら答えられそうもない。




 
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