ホットレモンの憂鬱
1.事の始まり
許可もなく俺と腕を組む女。
俺がバイトしている本屋の裏口を出た所で、あっさりとそいつに捕まった。
「今日はどこ連れてってくれるの~?」
「…さぁ?知らねー」
「えぇ~、何それぇ。大樹、冷たぁい」
「うるせーな、くっつくなっ!」
「やぁだ、離さないっ」
甘ったるい口調にイライラする。
化粧は濃いし、香水はキツイし。
わがままで自己中。
これが俺の、一応今の彼女。だそうだ。
俺のバイトが終わる22時頃を見計らって、待ち伏せするこの女もおかしいが、俺も相当おかしい。
「何で本屋なのぉ?大樹、地味~」
「他に近いとこなかったから。だから、ウザイからくっつくなって!」
「やぁだ!」
執拗にくっついて来て、香水をぷんぷん匂わす。
臭いんだっつーの。
振りほどいても、すぐにぴと~っと引っ付いて来る。
「見て見て~、セクシーでしょ?誘惑に負けそうでしょ~?」
と、胸元でぴろっと薄いキラキラしたキャミソールを見せつける。
「…ちっとも」
悪いんだけど、これっぽっちもその気にならないんだわ。
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