ホットレモンの憂鬱

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真愛と初めて会話したのは、入学から2ヶ月経った頃。

だだっ広く迷いそうな本屋の休憩室で、バイトを始めて3日目のまだ不慣れな時。

そろそろ、長袖から半袖に衣更えしようかと悩む6月。


その日は、少し肌寒かったのでカップジュースの自販機で、ホットレモンを買った。

カタッと紙カップが落ちてきて、ホットレモンが注がれた。

取ろうとした手の平に、熱い感触。


熱いのはわかっていたが、あまりの熱さに手を放してしまい。

バシャッっと、床に撒き散らしてしまった。


そこにちょうど、休憩に入ったレジ担当の女の子が来て、目を大きく見開き立ち尽くす俺を見た。


何処からか雑巾とバケツを持って来て、ふわふわな髪を揺らめかせながら、こぼしたホットレモンを拭いてくれた。


『すいませんっ!ありがとうございます』

何度、謝ったかわからないくらい、俺は顔を上げられないでいた。

『…さっきから、謝ってばっかり』

と、笑いかけてくれた。


見上げると、優しい表情で微笑んでいて、その顔に見覚えがある気がして聞いてみた。

『…あれ?何処かで会ったことありませんでしたか?』

ナンパをする時、声をかけるきっかけみたいな台詞。


その子は、きょとんとした顔で俺に視線を落とした。
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