ホットレモンの憂鬱
『北国に住んでて、寒がりってどうなの?』
真愛の馬鹿にしたような笑顔。
俺…、もう真愛以外のこと考えられない…。
居酒屋の欝陶しい電飾に真っ黒な夥しい影が出来た。
「…寒がりのくせに、何してるの…?」
ちょっと怒った様な声が、俺の頭上目掛けて振って来た。
そろりと見上げると、今一番会いたい彼女が見下ろしていた。
会いたくて仕方がなかったのに、いざ対面したら何の言葉も、気の利いた台詞も浮かばない。
非常に痛い男だ。
「…彼女、木村さん…。知らない男の人といたよ…?」
「ん…」
「…いいの?取られても?」
「ん…」
「ほんとに…?いいの?」
「ん…」
あんな女なんか、どうでもいいんだよ…。
俺は真愛が取られるのが辛いんだよ。
そう言いたいのに、言葉にならない。
喉の奥が苦しくて、熱いと悲鳴を上げている。