ホットレモンの憂鬱

頃は12月上旬。

とっくに初雪を振り落とし、降っては解けての繰り返しの毎日で、あとは根雪を待つ寒い季節。


秋口までは、家からバイト先まで徒歩だったのがあまりの寒さに今では車通勤。

バスで例えると、停留所4つ分程度の近い距離。

人一倍寒がりな俺は、この寒さには耐えられない。


そんな寒がりな俺が車で来ていると知っている木村は、頼んでもいないのに勝手に待ち伏せて、ちゃっかり車に乗り込もうとする。


「送ってくれるんでしょぉ?」

「お前の家、すぐそこだろ。1人で帰れよ、勝手に待っていたのはお前だろ」

ここから木村の家がはっきり見える距離。

「えぇ~。1人で歩くなんて怖いぃ、危ないしぃ」

と、猫撫で声で俺の腕にしがみつく。


俺はお前のその態度が、怖いんだわ。


あちこちの通用口から流れ出た賑やかな声。

「おつかれー」

「お疲れさまーっ」

その声の主たちには見られたくない。

「触るなっ!」

べったり引っ付く腕を振りほどく。


「何でよぉ、腕くらいいいじゃん~。今日こそ何処か行こうよぉ~。ホテルとかぁ」

「バカかお前…、触るなって!ほら帰るんだろ!?行くぞっ!」

いち早くここから立ち去りたい俺は、駐車場までスタスタ早歩き出した。


やってることと言ってることがメチャクチャだ。
< 4 / 50 >

この作品をシェア

pagetop