ホットレモンの憂鬱
頃は12月上旬。
とっくに初雪を振り落とし、降っては解けての繰り返しの毎日で、あとは根雪を待つ寒い季節。
秋口までは、家からバイト先まで徒歩だったのがあまりの寒さに今では車通勤。
バスで例えると、停留所4つ分程度の近い距離。
人一倍寒がりな俺は、この寒さには耐えられない。
そんな寒がりな俺が車で来ていると知っている木村は、頼んでもいないのに勝手に待ち伏せて、ちゃっかり車に乗り込もうとする。
「送ってくれるんでしょぉ?」
「お前の家、すぐそこだろ。1人で帰れよ、勝手に待っていたのはお前だろ」
ここから木村の家がはっきり見える距離。
「えぇ~。1人で歩くなんて怖いぃ、危ないしぃ」
と、猫撫で声で俺の腕にしがみつく。
俺はお前のその態度が、怖いんだわ。
あちこちの通用口から流れ出た賑やかな声。
「おつかれー」
「お疲れさまーっ」
その声の主たちには見られたくない。
「触るなっ!」
べったり引っ付く腕を振りほどく。
「何でよぉ、腕くらいいいじゃん~。今日こそ何処か行こうよぉ~。ホテルとかぁ」
「バカかお前…、触るなって!ほら帰るんだろ!?行くぞっ!」
いち早くここから立ち去りたい俺は、駐車場までスタスタ早歩き出した。
やってることと言ってることがメチャクチャだ。