ホットレモンの憂鬱
5.クリスマスの憂鬱
本屋の店内にも微かに流れるBGMは、オルゴール調のクリスマスソング。
今日はクリスマス・イヴ。
クリスマスということもあってか、この本屋…、人気はないようだ。
たまに、絵本なんかをプレゼントに買ってくくらいで、客足は疎ら。
…客より、俺はどうなんだ?
クリスマスにバイト入れた俺って…。アホだな。
真愛が待ってくれているから早く帰りたいのに…、時間はなかなか簡単に流れてはくれない。
「あれ、大樹くんはバイト~?あたしぃ、これからデートなのぉ~。有名なブランドの指輪買って貰うんだぁ~」
甲高い声が振り落とされ、見上げると木村が立ちはだかっていた。
またお前かよ…。
「…あっそ。じゃあ、こんなとこにいつまでもいないで早く行けば?」
「ごめんねぇ~。あたしのことは忘れていいからねぇ~」
とかなんとか言い捨て、カツカツとヒールを鳴らして去って行った。
ああ、すっかり忘れたよ。だから、お前もさっさと忘れろ。
「はいはい、さよーなら」
香水の匂いを残して行った木村姿に見向きもせず、そう呟いた。
突然の乱入者に、すっかり気分が落ちて行く。