ホットレモンの憂鬱
「起きた?2人、もう帰ったよ。お腹空いてるよね?冷めちゃったから温めるね」
「…俺の分、あるの?」
と、台所に立つ真愛の背中に投げかける。
「当たり前でしょ?」
振り向いた真愛が俺を不思議そうに見た。
だって、この残骸の跡は…?
指を差しただけで声にはならなかった。
「ちゃんと大樹の分、取ってあるよ。ケーキもね」
今テーブルの上片付けるから。と、微笑んでケーキを差し出してきた。
「これ、書いたの大樹でしょ?」
って、笑っている。
クリームの上に乗っかった、赤い粒を摘んで口に入れた。
甘酸っぱい苺と甘ったるいクリームが、口の中で程よい口当たりに調和される。
半分だけ残されたケーキ。
板チョコに書かれた[Merry Christmas]の文字に。
世話しなく動く真愛の後ろ姿を見ていたら…。
あんなに腹を立てていたことがちっぽけに思えてくる。
…何やってんだろうな、俺。
せっかくのクリスマスに。
真愛だって、こうしてわかってくれてんのに。
一緒に食べたかったケーキ。それに乗せられた板チョコの何の工夫もない文字。
俺がホワイトチョコで書いた汚い字。
「何で俺だってわかったの?」
「わかるよ。だって、私の大好きな苺のケーキだもん」