ホットレモンの憂鬱
今出て来た連中にはなるべく会いたくない。
ここはしがないショッピングモールみたいなもんで。
ファーストフード店が4つ、普通の居酒屋、リーズナブルな服屋に大型スーパー、ゲーセンに本屋と建ち並ぶ場所。
この時間に帰るバイトは9割がうちの大学の生徒だから、ばったり会えば冷やかされるのは目に見える。
出来るだけ早く帰ろうと、逃げるように立ち去ろうとしている俺に。
「まーちかっ!おつかれーっ」
「やっちゃんも今帰り?」
聞き慣れた声が広い駐車場に響き、耳に通る。
従業員用の裏口を出てすぐの、駐車場全体を照らす照明で、くっきり映し出された女2人。
そのうちの1人と目が会った。
黒いコートを羽織り、首に巻かれたチェック柄の赤いマフラー。緩くパーマがかった灰色っぽいブラウンの髪は横に束ね、その姿は夕方見た時のままの。
佐藤 真愛(サトウ マチカ)と。
パープルのダウンジャケットに、白いマフラーで明るめのオレンジに近い茶色の髪をアップにしている。
上島 康子(ウエシマ ヤスコ)。
どっちも俺と同じ大学1年で、同じ経営学部に、同じマンション。
今、一番会いたくない子に見られてしまった。