ホットレモンの憂鬱
「あんま全否定されると尚更怪しいし。ずっと朝までいちゃついてれば~?」
上島はふふんっと嫌味な台詞を吐くと、俺と木村を残し足早と夜の住宅地へと消えて行った。
…あいつっ!
わかってて、わざと言ってんな!?
いつまでも、2人が消えた方向を見つめる俺に、甘えてくる女。
「早く行こぉ~」
「…行かないつーの!もう疲れたし、寒いし。俺は帰るから、お前1人で帰れ」
「えぇ~」
縋り付く木村を置き去りにして、俺はスターターでやんわりとあったまった車に乗り込んだ。
車にまでしがみつく、ムカつく女に気づかないフリをして、アクセルを思いきり踏んだ。
見慣れた路地裏を走らす車の前を、仲良く歩く2つの影。
スピードを落とし、ゆっくり近づける。
「…乗れよ」
助手席の窓を全開に、立ち止まる2人に大きな声を張り上げた。
窓から上島が顔を覗かせて、わかりきった事を聞いてきた。
「え?ラブホじゃないの?」
…まだ言うかこいつはっ。
「お前…、それは嫌味か?」
呆れた俺に、意地悪そうに笑う上島。
「あはっ。ばれた?」
…ばれた?じゃないつーの。
「いい加減にしないと殴るぞ」
ニヤニヤする上島に白い目を送る。