ホットレモンの憂鬱
「あら?それはダイが悪いんでない?モタモタしてるから、煽ってあげてんじゃん!感謝してよねっ」
「悪魔だな、お前…。寒いし早く乗れっ!」
後部席のドアを開けた上島が抱えた荷物を置き、真愛に手招きして呼び寄せる。
「デートじゃないの?」
と、顔を顰める真愛。
冷たい夜風が入り込む助手席の窓を閉め、腕を伸ばし代わりにドアを開けた。
「…いいから。寒すぎるから早く乗って」
躊躇いがちに助手席に乗り込む真愛が扉を閉めると、俺はマンション目掛けて車を走らせた。
バッグミラー越しでニタニタ顔を緩ます上島を、なるべく見ないようにしていると。
「デートだったんじゃないの?」
そう真愛が小さな声を出す。
「いいよ、あんな女…」
「だけど、彼女でしょ?」
ちらっと横に目を向けると、上目使いで俺を睨む真愛。
だから、彼女じゃない。違うって。もう何百回も言ってんじゃん。
頼むから、少しくらい聞いてくれよ。
すぐ、前方に顔を向き直し。
「…しつこい」
怒った様に呟いた。
そんな俺の態度に、何も言わなくなった真愛。
後ろで深い溜め息を漏らしたのも、聞かなかったことにして、車内は無言のままマンションの駐車場に車を止めた。