雅 - MIYABI - *さみ短2*
すっかり元気を取り戻した璃花 私は、桃谷家を後にする。
友達と旅行なんて一年前の修学旅行以来ね。
桜華学院は、一応進学名門校。
だから、受験に差し支えないようにって2年の終わりに行ってしまったの。
私もまた心を弾ませながら駅まで歩く。
いつも降りる駅の一つ前で降りる事に。
なんとなく、あの木を観たくなって。
小さい頃よく遊んだ
私の心を穏やかにしてくれる
『梅の木』
濃い目の桃色に丸みを帯びた小さな花が、このスミレ色の空の下でよく映える。
今日は、元気がないとかではない。むしろ、普段以上に元気いっぱい。
だって、璃花と今の今迄一緒にいたんだよ♪
なのに、このポッカリ穴の開いたような気持ちは……何?
梅の木にそっと手をかざす。
東の空から薄っすら月が見える。
早く帰らないと、彩希(アキ)心配するよね?
心では解ってるのに身体が…動かない。
空は段々暗くなるのに、私の周りだけ、光りに包まれたような明るさに。
……何? 自分の身に今何が起きているのか把握出来ない。
その時、微かに聞こえる人の声。
「力を貸してください」
「誰?」
辺りを見舞わすが、誰もいない。
「私の声が聴こえるのですね?」
目の前の木だけが光ってる。
「まさか……ね」
私は、一人呟く。
「そのまさかです」
「本当に!? 梅の木がお話しされとるんですか?」
目を擦り、もう一度目の前の紅梅の木に視線を移す。