雪と涙とアナタと~CASE1~
「何もないと来ちゃいけません?」


私が少し膨れてそう言うと、彼は口から白い息とタバコの煙を吐いて苦笑した

その顔に愛おしさを感じるけれど、私は今日アナタから卒業すると決めているのだから、ときめいている場合じゃない


「でもまぁ良いか、中村が大学行ったらもう会う事ねぇもんな」


そう言いながら、彼は再び口にタバコを含んだ

私は既に、春から通う大学が決まっている

それは実家から通うには少し遠すぎて、私は下宿する事に決めていた

まぁ、家から通うにしろ、下宿するにしろ、塾を退校した私が彼と会う事はないのだろうけれど


「そうなんですよね~だから今日は先生にお礼言いに来たの」


ニッコリ笑いながら私がそう言うと、彼は「泣けるね~」とまた白い息を吐いた


本当に泣けるよ


卒業式でも泣けなかった私の目に、少し潤みが来ている事に気がついて、私は言葉を発せなくなった


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