旦那様は高校教師


「どうして次朗が此処に?」



私は次朗を撫でながら、少し遅れて庭へ来た心ちゃんに訪ねる。



「伯母さんの家に行き辛そうだったから…。此処なら週末に会えるし、散歩も出来ると思って…」



心ちゃんはコチョコチョッと頬を掻く。



「有り難う…嬉しぃ」



笑い掛けたつもりが、感激の方が大きくて涙が頬を伝う。



「クゥーンクゥーン」



心配そうな声で次朗は鳴き、私の顔をペロペロ舐めて涙を拭く。



フフッ、懐かしい。



あの頃も、こうやって次朗が涙を消してくれてたね。



親戚の家を出てから、何度も会いに行こうとした。



でも辛い思い出が多すぎて、足が進まない。



踏み出す勇気が出なくて、いつしか公園へ行く事さえ出来なくなった。



次朗…ごめんね。



会いに行けなくて…。



此れからはずっと一緒だよ?



私は次朗を抱き締めた。



心ちゃん、次朗に会わせてくれて…私の心を見抜いてくれて本当に有り難う。





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