ゆずの木
ふたつを天秤にかけても、どちらにも傾かない。


私はどちらも選べないまま家に帰ってきた。


カレーの匂いがする。
お母さんいるのかな?
玄関のドアを開けて、台所までいこうとした。



だけど…。


私、お母さんに合わせる顔がない。


玄関のドアを開けようとしていた手が急に緩んだ。しばらくそこから動けずに立ちすくしていた。
すると、後ろから、

「お姉ちゃん?」と声がした。

振り返ると、後ろには中学生の妹【由美(ユミ)】が立っていた。

「入らないの?」

「う…うん。鍵忘れたみたい。」

「カレーの匂いするからきっとお母さんいるよ!」

由美は笑顔で玄関のドアに手をかけた。

「ほ―らっ、開いた。」

私の顔をみて、得意気に笑顔で言うと、そのまま台所へ向かった。

「おかーさーん。今日カレー?」

ドタバタと走りながら母のいる台所に向かう由美。

私も後に続いた。

お母さんが、私たちに笑顔で「おかえり。」って。


ただそれだけの事なのに…。


それを見た私の目から涙が溢れた。


どうしよう…。止まらない。


涙を止めようと思っても、あとからあとからと溢れてくる。
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