また、君に恋をする
学力が小学生程度まで落ちた由紀に、根気よく勉強を教えてくれるのも勇人だった。

留学を途中でやめて戻って以来、細かい所にまで気遣ってくれている。


「…留学、私の為にごめんなさい」


由紀が言うと、勇人は何でもないという顔で笑った。


「今日は勉強はしないで出掛けよう」


勉強に疲れてきた頃、勇人はそう言い由紀を外へと連れ出した。

きっとよく知っていたはずの町並み。

だけどその記憶はまだ戻らない。

外に出ると


「何か思い出した?」


と聞く母親。

それが嫌ですっかり出無精になっていた。


「外もいいもんだろ?」

散歩をしながら、勇人はそう言った。

風が心地良く通り抜ける。

気分が軽くなっていく。

小さな店の前で由紀の足が止まった。

嗅いだ覚えのある甘い匂いが漂う。

お香の香り。


「…入ってもいいですか?」


由紀は勇人にそう言うと、店内へと足を運んだ。
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