また、君に恋をする
「脳に損傷は見られませんでした。

由紀さんは記憶喪失の疑いがあります。

一時的なものなのか、それはわかりません。

記憶の回復にも…」


難しい顔で長々とした説明が続いた。

私は記憶喪失なのだそうだ。

きっかけがあれば戻るかもしれないし、もう戻らないかもしれない。

一時的に忘れてるだけで、しばらくしたら戻るかもしれない。

そんなものらしい…。

そう言われても私はどこか他人事の様に聞いていた。

何を言われても実感が湧かない。

隣で中年女性が泣き出し、中年男性が困惑した表情を見せながらも女性を支えるように肩を抱いていた。

この二人は私の両親。

私の名前は飯塚 由紀。

留学中の兄が一人いて、年は17歳なのだそうだ。

写真を見せられて、色々な話を聞かされたけど、記憶は何一つ戻らなかった。

だけど不思議な事に生きていく為に必要な知識は覚えていた。

どうやってお箸を持つのか、どうやって服を脱ぎ着するのか、トイレはどうするのか。

物の名前が分からなくても、色や形、数は分かる。

体の記憶や本能が覚えているんだそうだ。
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