スイーツな恋

最上階には彼の姿はない。

わたしは、彼と同じ景色を見ようと思って、最上階に上ってみた。

眼下には、ただ何の変哲のない町並みが広がっているだけだ。

ドアが開いて彼が現れた。
突然のことにひやりとした。

彼はわたしのことなんて知らぬ存ぜぬの様子で
タバコをとりだすと煙をくゆらせる。

わたしは、横目でドキドキしながら、斜め見た。

「お前、好きなのか?」

「え?」
わたしは突然の彼の声にぎょっとする。

「ほら、やるよ。」
彼の顔が近づいてくる。覆いかぶさろうとした。

「そんなんじゃ…」
わたしは体をのけぞらす。

「タバコ!?」
わたしに差し出されたのは、タバコだった。

「ものほしそうな目で見てただろ。」

「ほら、吸ってみな」

わたしは、恐る恐るタバコを受け取った。

間接キッス!

ドキドキしながら、タバコを吸い込んでみたが、

何、これ、苦しいっ!!
ゴホゴホと咳き込んでしまった。

「ほらな、ガキには無理だろう。やめとけよ。」
彼はわたしの手からタバコを取り上げた。

「ガキって、わたしあなたと同い年よ。」

わたしの物怖じしないの態度に、意外な様子で彼が言う。

「お前、俺のこと、怖くないの?」
「何で?」
「みんな、近寄らないぜ。」
「みんなが、じゃなくて、あなたが自分から距離を置いているんじゃないの。」

「お前、何て名前?」
「池上、陽菜。あなたは?」

「この学校で俺のこと知らないやついないだろ。
 ワルとして有名だからな。」

「噂なんて関係ない。わたしは、あなたの口から聞きたいの。」

「泉翔馬っていうんだ」

「泉翔馬君、よろしくね。」

わたしは握手を求めて手を差し出した。その手をグイっと引き寄せて翔馬がささやく。

「なあ、明日、休みだろ。
 どっか、いかねえ?」

「それって、デートの誘い?
 行きます。行かせて頂きます。」

「おもしれぇ女!!」
翔馬が笑った。
胸がキュンってなった。

こうして、甘いスイーツのようにほろ苦くてきらきらに輝いたわたしの恋がはじまった…。










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