one.real
やかましく音をたてるそれのディスプレイには見慣れた名前。
『もしもし、碧杜?』
《悪い、今終わった》
『いーよ、したら俺先店行っとくわ』
なるべく急ぐ、その言葉に短く相槌を打って電話を切った。
上着を着て玄関に向かう。3月になったとはいえ、夜風はまだ冷たい。
外に出ると霧雨が空を舞っていた。
“じゃあ、他に方法あんのかよ、”
あの日も、こんな天気だったよな…
“…あいつを一番泣かさないで済む方法”
あの時、俺ん家の前にしゃがみこんでそう言った碧杜の頬を伝ったのは、雨じゃなかったと思う。