左手の約束
なのに……
俺の決意も虚しく
出逢ってしまった。
俺の中で一番綺麗な思い出であり
一番辛かった思い出。
一番逢いたくて
一番……逢いたくなかった人。
―――『しほ!!』
あの頃の思い出が蘇る。
―――『楓、お母さんはもういないんだ…』
駄目だ……
俺は目をそらす。
志保だってすぐ解った。
あの…俺を真っ直ぐに見る瞳。
落ち着け。
もうあれから12年も過ぎたんだ。
志保が俺を覚えてるはずがない。
……それでいいんだ。
…そのほうがいい。
そう自分に言い聞かせて
志保の前を通りすぎた。