私の中の眠れるワタシ

言われたとおり、職員玄関から出て、駐車場に向かって歩く。

車は、一台だけ。

もう、先生のしか残っていない。
私は、窓から中を覗く。


……この車に、美月が乗ってる?


ぐるぐる車の周りを回る。後部座席に、何かヒントがないか、助手席には?

探偵気分だ。
だが、結局なにもないまま、諦めた頃、先生が来た。


「待たせたな。よし、じゃ乗れ!」

ドアを開けると、その瞬間。

何処かで嗅いだ事があるような香りが流れ出してきた気がした。


香水?何処で…?


どうしても、思い出せない。でも、女性らしいこの香りは、先生のものではないように思う。


まるで、先生の帰りを出迎えるように、車の中でじっと待つ、この香り。

これ自体に、生命が宿っているような、不気味な錯覚までしてくる。


私は、何も言えずに乗り込んだ。



< 133 / 433 >

この作品をシェア

pagetop