私の中の眠れるワタシ
黒い唇に、ブレス
あれから手首の口は、もう何も話さない。
でも、いつでもこの日の事を、固く結んだ唇からワタシの胸に、語りかけてくる。
−−−ワスレルナ、ワスレルナ。
アノコトヲ、ワスレルナ……
唇は、どす黒くなって、真っ白なワタシの手首で激しく自己主張をしている。
病院にも行かず、放置したせいかもしれない。
ワタシには、退職と同時に、保険証がなかった。
国民健康保険の加入も、後回しにしていた。
だから、病院に行くのも面倒臭いうえ、説明も支払いも、面倒臭い。
毎日、ガーゼを取り替えて、その上に颯生が買ってきたサポーターをしながら過ごした。
それから二週間程たつ頃には、コンビニで店員にお金を渡す時、手首のサポーターを見られているような気がして、恥ずかしくなりだし……
まだ少し傷口が乾いていなかったが、お構いなしにブレスレットを探して着けた。
治りかけの傷口が、黄色くカサブタになり、時々チクチクした。
その痛みでまた、ブレスレットを探しにいった、あの日の事を思い出したりする。