私の中の眠れるワタシ

「失礼します。」

ワタシが理科準備室に入るとすぐ、奥へ通してくれた。

生徒の帰宅時間を知らせる校内放送のボリュームをおとしながら

「今日、どうしたんだよ。何かあったんだろ?職員室ですぐ聞いて、絶対何かあったって、心配してたんだ。どうした?」

目の前に座った。
ホントに担任は優しい。心の底から心配しているのが伝わる。

ワタシは、何も考えずにスラリと涙が流れた。
手元をみつめ、爪の間の黒い汚れをいじくった。

「先生……。」

涙など見せた事はなかった。これだけで、先生は非常事態だと気付く。

「な、長崎……。全部話せ!誰かに虐められてるのか?成績か?高校受験までは、まだ時間あるぞ?話してみろよ。今日は時間あるから、ゆっくり聞けるぞ?」

「はい。ありがとうございます。実は……」

ここで、一息ついた。
勿体振るため?
いや、完璧なワタシに入れ代わるために。

「ワタシ、好きな人がいたんです。」

先生が、ホッとしたような顔をした。

「あ、そういう事かぁ。ま、この時期、いろいろあるよな。」

「はい。ワタシが好きだったのは、先生なんです。あ、相田……先生。」

先生は、相田……あぁ、と言って、頷く。

先ほどまで飲んでいただろうコーヒーカップの中の濁りを見ている。


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