私の中の眠れるワタシ
「蜜かい?!」
玄関まで、母が走ってきた。
「お前、それどういうつもりだよ……。」
大きな荷物を見て、母が睨んだ。
いつもの癖で、足がすくみかけた。
でも、外には、三宅ちゃんが待っているんだ。
後、数十メートルも走れば、私は『自由』なんだ。
そう思う事で、とてつもない勇気がでた。
私に近付く母が、スローモーションのように見えた。
カバンの取っ手を掴まれる。
でも私は、その手を力いっぱい振りほどいた。
何も言わず、玄関のドアを開ける。
「コノヤロー!待て、こら!!」
母は、靴も履かず追って来た。
私は迷いなく、車の助手席に滑り込む。
「早く!出して!早く!」
三宅ちゃんも、母の形相と、私の剣幕に驚き、慌てて車を発車させた。
後ろを振り返ると、車が停まっていた場所に、母が立ち尽くしていた。
私はもう、振り向かない。
最後に車の中から
「バイバイ、お母さん。」
と、呟いた。