私の中の眠れるワタシ
しばらく、沈黙が流れる。
ソウタは簡単な口約束ができない性格だ。
私は、ソウタが黙り込む間に、グラスを空けた。
それをみて、合わせるようにソウタも一気に残りを飲み干した。
「……じゃあ。こうしないか。俺には今、彼女がいる。」
「はあ。知ってるけど。」
「お前は?」
「私?いないけど?」
迷いなく、そう答えた。
「……あいつに内緒で、俺と付き合えよ。」
−−−きた。とうとう。
私はこれを待っていた。いつ、誰と、どんな取引にも応じられるように、今までイチヤの事は伏せてきた。
「そんな簡単な事でいいの?」
私の返答に、逆にソウタが焦る。
「だって。俺、彼女いるんだぞ。とりあえずは、しばらく別れないぜ?」
別れてほしいなんて、思うわけがない。
そんなの、後々どれだけ面倒な事になるか……。
「むしろ、ソウタがばれないようにできるなら、だけどね。」
「俺?俺は、まあ、大丈夫だけど……。」
「そう。じゃ、行こ。」
「どこに?」
「決まってるでしょ。」
ホテルよ。
そう言ってソウタの手をひく私達の間に、踊っている時のような健全さは、もうなかった。