私の中の眠れるワタシ
ジプシー
イチヤの家に住んでから初めて、朝帰りをしてしまった。
ソウタの嫉妬の炎は朝まで消える事がなく、ワタシは身も心も疲れきり、少しの隙を見計らって、逃げるように部屋を後にしたのだった。
静かにドアを閉めたのに、その物音でイチヤは目を覚ましてしまうほど、ワタシを待ち焦がれていた。
「お帰り、蜜。……朝だぁ。
とうとう今日がきたんだねぇ。」
私は、イチヤにとっての『今日』の意味を悟れないまま、少し寝ぼける彼の隣に潜り込み、背を向けた。
彼は私の背中から腕をまわして、
「半年に、なったんだね……。短かったね。早かった。」
と、おでこを強く押し付ける。
「今日は六本、ロウソクをたてたら一回、火を消そう?
そして、そのあとは、ケーキにできるだけ沢山のロウソクを立てたら、一緒にそれを見て、せーので、吹き消すんだ。
そしたらオレ、きっとさ。
きちんとあきらめられると思う、きっと。」
ワタシは、声をあげて泣いていた。
彼は、恋がもう永遠に実らない事を知っていた。
−−イチヤじゃなくちゃ、駄目。
そんな風に、ソウタのダンスに対するくらいの強い想いを私が持てたら。
……彼が編みあげた、私を閉じ込めるトリカゴを、それは『恋』だと錯覚できていたなら。