私の中の眠れるワタシ
フレグランスを扱う仕事を始めてから、私はコーヒーが好きになった。
新人研修時代、香りを試しすぎて嗅覚がマヒしてしまったお客様には、コーヒー豆の匂いを嗅いで、一度リセットしてもらうようにと教わった。
新しく発売される香りを試す事は仕事だから欠かさない。
だが、今日のようにチクリと胸を刺す香りと長く接する時間があると……
私はいつまでもその香りが自分に纏わり付くようで、休憩時間になるとすぐに、コーヒー豆の香りが充満したカフェへ急いだ。
ブラックは、飲めない。
だからいつもカフェラテやカフェオレを頼んだ。
口をつけると、完全に身体の中までリセットされたような気持ちになって、安心して売場に戻る。
売場にはまた、新しいお客様が自分のために香りを選んでいた。