私の中の眠れるワタシ
お店の中だったけど、ちょうど周りの席に客はいなかった。

それを確かめて、キャップをとり、鼻を近づけた。



彼は、ZENのシリーズの中から『香水』を選んできた。

一番香りの持続時間が長く、香りの変化も楽しめる。
さすが、彼の選択だ。


「トワレって名前の香水なんだー!」

今となってはレイのあの発言は、いかに彼を演技させていたかがわかる。


彼は、私よりずっと研究熱心で勉強をたくさんしていて、たくさんのフレグランスの物語を話してくれた。

私はそれを、子供が母親から聞く、昔話のようにベットで聞いた。



「すごく蜜に似合うよ。迷う事なく、これにしたんだから。」


私にとって、ただのプレゼントとは全く違う。

彼が私の中に見たワタシが形となって今、手の中にある。

私に足りないエッセンスをプラスしながら、私がもっと私らしくなれるように。



私は手首に、一滴落とした。



手首そのものが大きな白い花を咲かせたような香りがたちのぼる。



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