私の中の眠れるワタシ
白い糸
新しい街に着いて、また一から部屋の作り直しだ。
一ヶ月も経てば、慣れるだろう。
そう思ってきたけど、実際はもっと早く慣れた。
彼からはもう、電話もメールも来ない。
心待ちにしているワタシを、最後に彼がくれたフレグランスが嘲笑う。
−−彼が改札を出る時に、ポケットをまさぐり始め、ワタシは緊張して固まった。
だけど、期待は見事に外れて、彼が取り出したのは。
ミニチュアのフレグランスボトルだった。
「これで、蜜との思い出の品が、全部無くなるから」
そう言って、ワタシの手の中に握らせた。
みるとそれは昔、彼がワタシの店から買っていったGUCCIのENVYだった。