私の中の眠れるワタシ

……点滴の注射が効いているのか。

昨日のような痛みは感じなかった。

私はこれなら大丈夫だと起き上がる。

式の準備で、一番最後に後回しにしてきたもの。




−−それは、両親への手紙だった。




もし、式ができなくても、これだけは、渡そう。

そう思って、適当な紙をさがしてペンを持った。

……言葉が、思いつかない。
過去がめぐりだす。


オトウサン、オカアサン……

お父さん、お母さん。


私は、お腹に赤ちゃんの胎動を感じた時、ペンが進み始めた。

「お母さん。
私はお母さんが、うらやましかった。
キレイで、自慢でした。」
一行空けて、次の一文字書き出す。
それだけなのに。

今までに感じた事がないくらいの緊張感が襲う。

「テニスも、お母さんが学生時代にやっていた事を聞いて、入部しました。
なぜなら、大人になったら一緒にやりたいと、よく私に言い聞かせていたからです。」

−−部長ニナレバ、オカアサン、認メテクレルカナ

「社交ダンスも、お母さんが若い時に流行っていて、自分が仕事の後にはその集まりに行くのが楽しかったと言っていた事を、無意識に思い出し、サークルの扉を開きました。」

−−勝テバ、イツカ見ニ来テクレルカモ


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