私の中の眠れるワタシ

−−だから。

気付かなかったんだ。

彼がその日、その時間にどんな風に過ごしているかなんて。




私は、いつもの道と違う道を歩き、ベビーカーを押していた。

もう季節は夏を過ぎ、秋を迎えようとしていたが、まだ残暑は厳しかった。
ベビーカーを押す掌の中に、べたついた汗を感じても。

こんな汗も、嬉しかった。

圭太郎が外出の疲れに心地よく眠る姿を見ると、私はその手に、

「私が守らなくては!」

と、妙な責任感をもち、力がこもった。


だから一瞬、見たものを素通りした。

見たんだけど、見なかった事でもいい。
そうしたい、という深層心理が働いた。


−−−アキが、女性と手を繋いで歩いていた。




< 372 / 433 >

この作品をシェア

pagetop