私の中の眠れるワタシ
−−だから。
気付かなかったんだ。
彼がその日、その時間にどんな風に過ごしているかなんて。
私は、いつもの道と違う道を歩き、ベビーカーを押していた。
もう季節は夏を過ぎ、秋を迎えようとしていたが、まだ残暑は厳しかった。
ベビーカーを押す掌の中に、べたついた汗を感じても。
こんな汗も、嬉しかった。
圭太郎が外出の疲れに心地よく眠る姿を見ると、私はその手に、
「私が守らなくては!」
と、妙な責任感をもち、力がこもった。
だから一瞬、見たものを素通りした。
見たんだけど、見なかった事でもいい。
そうしたい、という深層心理が働いた。
−−−アキが、女性と手を繋いで歩いていた。