私の中の眠れるワタシ
「最近、ナーガは冷たいね」
交換日記の一冊に、その言葉が書かれるまでに、これだけしか時間がかからないとは思わなかった。
「えー、どのへんが?」
とは書いたが白々しいな……。
ま、いっか。
新しい恋を見つけた彼女には、また新しい交換日記の相手が必要かもしれない。
応援してる事、次こそはうまくいく事、明日はラッキーな事を今まで通りノートに詰め込んだら、キャラクターのついた交換日記の表紙を閉じた。
「ねえ、今日は何見てるの。」
「それより長崎さん、最近私の事気にしてくれるわね。大丈夫よ、一人ぼっちに見える?」
「ううん、違うの。私、なんか羨ましいの。」
……何故だろう。彼女につい、本音を漏らしてしまった。
美月は最初、怪訝そうに、でも少しずつその言葉の意味を解釈しようと、私の瞳をのぞきこんだ。
−−ツカマエラレタ。
もちろん彼女は、化粧なんてしていないけど、まぶたには日の光を吸収したようなツヤと、すでに誰かにしっかりと愛された事があるような、赤い唇をしていた。
私はといえば。
ひと夏しっかりと焼いた肌が今だ浅黒くカサカサで、髪もパサパサで……
唇も、荒れていた。
「長崎さん。あなたって孤独なのね。私には、わかるわ。だってあなた、恋してるもの。」
美月は、さらっとそう断言すると、窓際を離れた。
そこに私は一人取り残されて、もう一人の『ワタシ』だけしか存在しなかった。