私の中の眠れるワタシ
「私の部屋は、こっち。」
玄関を開けた瞬間に、異質な空気に触れた事を感じた。
靴が、たくさんある。
赤いパンプスに、黒い革のミュール、ショートブーツに……
うちと明らかに違うのは、ツッカケとよばれるような、安っぽい、スーパーに買い物に行くような靴は一つもない事だった。
「これ、誰の靴?美月の?」
「まさか。母さんのよ。」
その中にいくつか、男性物の、高級そうな革靴が混じっていた。
「お父さん、家にいるの?」
「いえ。……ああ、あの靴?あれは、雅史さんのよ。母さんの男。
うちに、父はもともと、いないわ。」
それだけいうと、まっすぐ美月の部屋に通された。
部屋は、意外だった。彼女の普段の雰囲気では、部屋は綺麗に片付けられ、殺風景な窓際のチェアで絵でも描いているイメージだった。
その私の心も見透かされたのか、クスクス笑いながら、
「驚いた?」
と、背後から声をかけられた。